大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和58年(行ツ)19号 判決

上告人

旧商号北王地所株式会社

北王通商株式会社

右代表者

菊地蕃

右訴訟代理人

竹田平

被上告人

栃木県宇都宮県税事務所長

佐藤正光

右指定代理人

古川悌二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹田平の上告理由について

地方税法によれば、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格とする、右の価格は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については当該価格により、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については自治大臣の定める固定資産評価基準により、それぞれ決定する、とされている(七三条の一三第一項、七三条の二一第一項、二項)。そして、昭和五〇年一二月二二日付け自治省告示第二五二号による改正後の固定資産評価基準(昭和三八年自治省告示第一五八号)によれば、固定資産税に係る昭和五一年度から昭和五三年度までの各年度における家屋の評価に限り、再建築費評点数に自治大臣が別に指示する再建築費評点補正率(非木造家屋にあつては1.4)を乗ずる、ただし、昭和五一年度における「在来分の家屋」の評価に限り、右改正後の基準によつて求めた家屋の価額が右改正前の基準によつて求めた家屋の価額を超えるものについては、後者の価額による、「在来分の家屋」とは「新増分の家屋」以外の家屋をいい、「新増分の家屋」とは当該年度において新たに固定資産税の課税客体となる家屋をいう、とされている。固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日である(地方税法三五九条)から、昭和五〇年一月一日現在で既に固定資産税の課税客体となつていた家屋は昭和五一年度における「在来分の家屋」に該当し、昭和五〇年一月二日から昭和五一年一月一日までに新築された家屋は昭和五一年度における「新増分の家屋」に該当することとなる。上告人は、昭和五一年八月一八日、融和商事株式会社から売買により本件建物を取得したが、本件建物については固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていなかつたため、被上告人は、本件建物が昭和五一年度における「新増分の家屋」に該当するとして右改正後の基準によりその価格を決定した上、本件不動産取得税賦課決定をした。原判決は、本件建物は昭和五〇年一月一日現在においてはいまだその新築工事が完了していなかつたため固定資産税の課税客体となつておらず、同年二月ころに課税客体となつたのであるから、昭和五一年度における「新増分の家屋」に該当するとして、本件不動産取得税賦課決定を適法と判断した。論旨は、要するに、本件建物は昭和五〇年一月一日現在で既に固定資産税の課税客体となつていたもので、昭和五一年度における「在来分の家屋」に該当するにもかかわらず、原判決がこれを「新増分の家屋」に該当すると判断したのは法令の解釈を誤るものである、というのである。

思うに、固定資産税は、家屋等の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるところ、新築の家屋の場合は、一連の新築工事が完了した段階において初めて家屋としての資産価値が定まり、その正確な評価が可能になるというべきである。また、新築工事中の建造物が、工事の途中においても、一定の段階で土地を離れた独立の不動産となる場合のあることは否定できないが、独立の不動産となる時期及びその時期における所有権の帰属を認定判断することは課税技術的に必ずしも容易なことではないのであつて、工事途中の建造物を課税客体とすることは、固定資産の持つ資産価値に着目しつつ明確な基準の下に公平な課税を図るべき固定資産税制度の趣旨に沿うものとはいうことができない。そして、地方税法は、固定資産税につきいわゆる台帳課税主義を採用し、家屋については、第一次的に建物登記簿の登記によつて納税義務者たる所有者を把握することとし、三八一条七項において、市町村長は建物登記簿に「登記されるべき家屋」が登記されていないため課税上支障があると認める場合においては当該家屋の所在地を管轄する登記所にその登記をすることを申し出ることができる旨規定しているが、ここにいう「登記されるべき家屋」とは、不動産登記法九三条一項及び一五九条ノ二の規定により建物表示登記の申請義務を課せられた家屋であり、それは一連の新築工事が完了した家屋をいうと解される。更に、地方税法は、三四九条二項において、固定資産税の課税標準たる家屋の価格に係る「家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」がある場合の評価替えについて規定しているが、一連の新築工事における続行工事を右規定にいう改築又はこれに類するものと見ることは困難であつて、地方税法が右続行工事による価値の増加を理由とする右価格の評価替えを予定しているとはいい難い。以上のような固定資産税の性質目的及び地方税法の規定の仕方からすれば、新築の家屋は、一連の新築工事が完了した時に、固定資産税の課税客体となると解するのが相当である。

これを本件について見るに、原審の適法に確定したところによると、本件建物は、注文者融和商事株式会社と請負人岡崎工業株式会社との間の請負契約に基づき新築された鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階地上一二階建店舗・事務所・旅館で、昭和五〇年一月一日現在においては、基礎工事、鉄骨鉄筋工事及びコンクリート工事が完了し、コンクリートの壁及び床もほぼ出来上つていたが、内部仕上工事、すなわち床工事、内壁工事、天井工事、照明器具の設置等が全体として未完成の状態にあつたところ、岡崎工業株式会社は、同月一杯かかつて右内部仕上工事を完成し、同年二月に請負代金の約八〇パーセントを受領して本件建物を融和商事株式会社に引き渡した、というのである。そうであるとすれば、本件建物は、昭和五〇年一月一日現在においては、一連の新築工事がいまだ完了しておらず、したがつて固定資産税の課税客体となつていなかつたもので、同年二月ころに初めて課税客体となつたというべきであるから、昭和五一年度においては固定資産評価基準にいう「新増分の家屋」に該当するものであり、このことを前提とする本件不動産取得税賦課決定は適法というべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(島谷六郎 木下忠良 鹽野宜慶 大橋進 牧圭次)

上告代理人竹田平の上告理由

原判決は法令の解釈を誤つた違法がある。

一、原判決は、その理由において、「建築途上の家屋が固定資産税の課税対象となるのは、当該家屋の一連の建築工事の過程において、課税目的に照らしこれ以上当該家屋の価格の増加が把握できないといえる程度に工事が完了したと認められる状態、換言すれば、当該家屋の本来の用途に応じ現実に使用収益することが可能な程度に工事が完了した状態に達したことを要するものと解するのが相当である。」と判断して、上告人の主張を排斥した。他方原審の認定した事実によれば本件建物は「昭和四九年一二月末当時は一一・一二階の追加工事を含めて、本件建物の基礎工事、鉄骨鉄筋工事、コンクリート工事は完了し、コンクリート壁及び床もほぼ出来上っていたが、その内部仕上工事、即ち床工事、内壁工事、天井工事及び照明器具の設置等が全体として末完成で」「昭和五〇年二月頃に至つて始めて前記目的の用途に従つた使用が可能な程度に達したものとみるのが相当であるとした

従つて「本件建物は昭和五〇年一月一日現在固定資産税の課税対象として所在していた家屋であるということはできず、同年二月頃その課税対象となつたものというべきであるから、昭和五一年度の固定資産評価基準においては『在来分の家屋』でなく、『新増分の家屋』に該当する」と説示し被上告人、栃木県宇都宮県税事務所長が上告人に対してした本件不動産取得税賦課決定を適法であるとした。

二、しかしながら原判決は建築途上の家屋がどの程度まで建築されたときに固定資産税の課税対象となるかについて判断を誤つたものであり、以下の諸点からみて不当であり、法令の解釈を誤つた違法があるものとして破毀されるべきである。

原判決はまず新築家屋につき固定資産税の課税対象となる建築途上の家屋をして当該家屋の本来の用途に応じ現実に使用収益することが可能の状態に達したものであることが条件であるとするが、このように解すること自体に問題があるというべきである。

固定資産税においては必ずしも建築工事の全部が完了しなくても建築としての構造上必要不可欠とされる重要構造部を備え、社会通念上一個の不動産として取引又は利用の対象とされ得る程度に達した時に同税の客体になるというべきである。

けだし不動産登記は、あるものが一個の独立した不動産として取引される状態になつた場合に、その不動産についての権利の保護のために認められるものである以上固定資産税においてもそのものを社会的に建物として独立性あるものとして課税しても何ら不合理とはいえないし、しかも固定資産税はいわゆる台帳主義によつているものであるから不動産登記における建物の取り扱いと同じ扱いをなすことがかえつて適当であるのである。

このように原判決の前提解釈は妥当でないのである。

三、不動産取得税と固定資産税における家屋の概念は同一に解すべきである。両者が税源とする所得と収益性は勿論性格を異にするものであるが、それらに対する担税力の基準を同じく当該資産の評価額に求めていることから考えてこれを別異に解する理由はないし、又不動産取得税の課税標準価格は固定資産税台帳に登録されている不動産については当該価格により決定されること(法七三の二一)からみても法は両者の基準を同に取り扱うことを予定していると解されるからであるとする。

四、不動産取得税につき家屋が新築された場合において「最初に使用又は譲渡が行なわれた日において家屋の取得がなされたものとみなし」ている(地方七三条の二第二項)

ところで本件のような建築工事を残しながらも家屋の所有権が譲渡された場合、右の規定をどのように解し、不動産取得税をどのような方法で課税すべきかは異論があるところであるが、家屋が新築された場合にはいつ新築されたか紛議が生ずるのでこれを回避するため家屋の新築の場合には最初の(使用又は)譲渡に課税することを宣明することに意味を有するものと解するのが正当である。

従つて右規定は家屋につき最初の(使用又は)譲渡に課税をするとしているのであるから、その家屋につき使用より前に譲渡がある場合には、その家屋が不動産登記や固定資産税の課税において不動産として社会通念上認められるものである限り正にその譲渡に課税さるべきこととなるのである。

このように解することが流通税の一種として不動産の取得に担税力の存在を推認し取得の事実を課税要件とする不動産取得税の趣旨に合致するものといえるのである。

五、ところで不動産取得課税基準として自治大臣の定めた昭和五〇年一二月二二日付自治省告示第二五二号にかかる「新増分の家屋」とは昭和五〇年一月二日から同五一年一月一日までに新築された家屋であり「在来分の家屋」とは同五〇年一月一日現在既に存在する家屋とされている。

又原審の認定した事実によれば本件建物は昭和四九年一二月末当時基礎工事、鉄骨鉄筋工事およびコンクリート工事は既に完了し、コンクリートの壁面および床はほぼでき上つており、レストラン用にテナント入居者募集中であつた。一一階、一二階についての設計変更にともなう厨房や床等の追加工事および各階の内装等の仕上工事が一部未了であつたほかはほとんどの工事が終了していたものである。加えて同四九年一一月二八日には業務用電力の通電がなされ、同月三〇日にはガス供給契約が締結されてガス設備が設けられていたこと、更に同年一二月五日建築完了届が宇都宮市長に提出されていたこと、同月二六日ごろ一階から一〇階までについて仮使用期間を同五〇年一月一五日から四月三〇日までとする建物仮使用の承認をうけ、更に同年一月二二日ごろには一一階と一二階についても仮使用期間を同年二月一日から四月三〇日までと定めた建物仮使用の承認をうけていたことについては当事者間に争がない事実である。

従つて昭和五〇年一月一日現在においては自ら使用管理できた状況にあつたし、又譲渡するについても完成家屋と大差がないものと考えられる。

六、そうすると固定資産税および不動産取得税の客体としての家屋は必ずしも建築工事全部が完了しなくても既に主要構造部を備え社会通念上土地から独立した一個の不動産として取引又は利用の対象とされ得る程度に達すれば足りるというべきであるから、本件建物は昭和五〇年一月一日現在既に不動産取得税の課税の課税対象とされる家屋(法第七三条三号)に該当することは明らかである。

仮りに原審のような考えに立脚したとしても前記のような家屋の状況からして昭和五〇年一月一日現在既に不動産取得税の課税対象とする家屋に達したとみるのが妥当であり、従つて「在来分の家屋」に該当するというべきである。

それ故に被上告人が本件建物を「新増分の家屋」に該当することを前提としてなした本件不動産取得税賦課決定は違法であり、これを容認した原判決は破毀さるべきである。

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